戦略的人材マネジメント1（1）あなたの職場の”困った人たち”を攻略しよう！

　
執筆：佐藤祐樹（BBT大学院MBA本科修了、三丸化学株式会社 取締役）
対象科目：戦略的人材マネジメント（川上真史 教授）

「何のために働いているのか？」　今、この問いに対し、出世や高収入ではなく、自分の人生やキャリアにとっての意味を求めるなど、企業で働く人材の意識が大きく変化しています。

一方で、働き方改革による就業時間の上限設定や生産性向上など、政治・社会からの変革の要請も強くなってきています。

そのため、企業の人事担当者のみならず部下を持つ立場にある方々は、人材の意識の変化をマネージしながら、従業員がいかに能動的に働き、成果を上げるのかを考えていかなければならなくなりました。

では何をどうやって？ 以前もご紹介した『戦略的人材マネジメント』の続編を、最新の「心理学」の研究に基づいて、BBT大学院の修了生の方に分かりやすく解説していただきます。

あなたの職場の困った人たち

あなたの職場には、少なからず「困った人たち」がいるはずです。頑固な人、突然怒り出す人、簡単に解決できる問題からも逃げ出す人。 自分のことを有能でキレ者だと信じて疑わない、組織を蝕むローパフォーマー。

このような人たちは厄介ですが、誰がなぜこんな人材を採用したのだ、といった議論は不毛です。本人たちは一生懸命仕事をしているつもりですし、労働法上、簡単に解雇できません。彼らにも生活があり、家族もいます。胸が熱くなるような夢や使命感を持っていたりもするかもしれません。

だからと言って、そのまま放置すると会社がつぶれます。企業や組織は、このような人々に対してしっかりと対処することが求められます。

結論から言うと、これらの「困った人たち問題」は、簡単に解決できません。簡単に解決できないから厄介な問題なのです。

しかしながら、彼らの心の動きを理解することは有用です。彼らの心の中でどんなことが起こっているかを理解すれば、根本的な解決はできなくても、ある程度の次善の策を講じることができるからです。そこで、心理学の出番です。

コンプレックスというモンスターとは？

困った人たちの問題行動の多くは、コンプレックスに支配されています。日本において、コンプレックスは劣等感という意味だと思われがちですが、これは誤りです。本来のコンプレックスとは、「無意識の中に閉じ込められた、複雑に絡まり合った感情」のことです。

人間の心は複雑です。自我を持った状態では直視できないものを、無意識の中に閉じ込めてしまいます。

思い出したくもない過去の出来事や、常識的ではない考え方、異常な性癖。人間は誰しも、ある程度はこのような問題を抱えているものです。そのことを自我によってしっかりと認知し、理性によってコントロールしようと自然に努力します。

しかし、抱えている問題があまりにも深刻で、直視できないほどに大きなモンスターに育った場合、理性ではコントロールできなくなってしまいます。他者にバレてしまうことを恐れる以前に、自分で認めることができなくなります。

そして、心の奥底、無意識の領域にモンスターを閉じ込めます。最初からなにもなかったことにしてしまうのです。これがコンプレックスです。

問題行動の原因はモンスターの存在

コンプレックスを抱えた人は、モンスターを無意識の中に閉じ込めているため、普段は常識的に行動します。ところが、なにかの拍子にモンスターが自我（意識）の領域に顔を出した途端、狼狽します。それを認めたくないばかりに、理性のコントロールが効かなくなり、問題行動を起こします。

突然怒り出したり、気持ちが悪いほど同調してきたり、異常なまでに無関心を装うという行動です。 職場の「困った人たち」の問題行動の多くは、このコンプレックスに起因するのです。

次回、モンスターが顔を出した瞬間に起きる心の動きを解説します。