BBTインサイト 2019年3月24日

「超ソロ社会」、ニッポンの未来を先読みせよ〈 第2回 〉マーケティングの表舞台に登場した”ソロ男”を取り込め



講師:荒川 和久
株式会社博報堂 アクティベーション企画局 ソロ生活者研究所所長


20年後、日本の人口の半分は独身者になります。ソロ(独身)が増加すると社会構造、消費形態が変わり、マーケティングのかたちが変貌することを第1回でご紹介しました。第2回の今回は、今後時代の中心となるソロ男女、特に男性側にスポットを当て、市場を掘り起こす上での興味深い行動実態に迫っていきます。

また、収入の増加に伴いソロ男のように行動するソロ女、結婚しても別財布を貫く夫婦など、世の中はソリッド(固形)社会から、より「個」を中心としたリキッド(液体)社会へ変わりつつあります。時代の宿命として流動化する社会の実情を受け止め、顧客として取り込むチャンスを模索していただければと思います。

1.いよいよマーケティングの表舞台に上がってきたソロ男

以前は、女性の方が消費意欲が旺盛で、消費は女性が作ると言われていました。例えば、2000年ごろに「おひとりさま」ブームがありましたが、女性が一人焼肉に行ったり、一人居酒屋や一人鍋だったりがクローズアップされていました。その時も対象は女性ばかりだったのです。しかし、一人焼肉も、一人居酒屋も一人鍋も、男性はずいぶん前から一人でやっていましたが誰も注目をしていませんでした。

人口の半分以上は男性なのに、なぜ独身男性は消費のターゲットにならなかったのでしょうか。「結婚できない」⇒「甲斐性がいない」⇒「低収入」⇒「お客にならない」というイメージがついており、ターゲットとするには意味がないと捉えられていたわけです。事実、未婚の男性は年収分布を見ると、過半数は300万円未満です。

しかし、皆さんのまわりで、結構お金を使っているなという印象のソロ男はいませんか? そこでこれまで誰も研究をしていなかったこのソロ男について分析を進めていくと、面白いことがいろいろと判明してきたのです。特徴的なものをいくつかご紹介してみましょう。


2.市場を大きく動かすポテンシャルをソロ男の行動分析から読み解く

●行動1: エンゲル係数が圧倒的に高い
ソロ男が一番お金を使っているのは食費です。エンゲル係数が単身男性は28.9%とほぼ3割になっています。ちなみに二人以上の世帯は25.8%、単身の女性は20%ですので高い数値だということは一目瞭然です。また、率ではなく実額で見てみると次のグラフのようになります。

一家族が平均して使っている額を100%としたのが真ん中の赤いラインです。調理食品、飲料、酒類、外食は一家族の額を抜いています。外食に至っては、一家族の2倍の額を一人で使っているということがわかります。

また、ソロ男はほぼ毎日買い物に行きます。週に5日はコンビニに行くし、週2日はスーパーを利用します。なぜ毎日買い物をするのかわかりますか? 要は、ソロ男は買いだめをしないのです。その時その時に使うものや食べるものを買うのです。ソロ男を端的に表す言葉が「お店が冷蔵庫」なのです。なので、毎日コンビニを使うのです。

もう一つ面白い傾向があって、独身男性はプラスオン消費をします。一つ例を挙げると、毎日ポテトチップスを食べるので、健康に気を使いトクホ茶を買います。でも、ポテトチップスをやめるという選択肢はないのです。節約するという概念がありません。

●行動2: ゲーム課金、アイドル市場、アニメ市場を支えているのはソロ男
ポケモンGOや、SNS的なスマホゲームなどは課金がありますが、課金をしているのはソロ男が多いと言われています。AKB48などのアイドル市場も現在1500億円規模になっていますが、これも彼らが支えているわけです。もっと言えば、40代以上の独身男性が支えています。ある程度お金を持っている人たちです。あとはアニメ市場です。例えば、「君の名は」を何度も観に行った人たちが、何度も見に行った挙げ句、DVDも買うし、グッツも買うし、聖地巡礼もするわけです。めちゃくちゃハマるのです。この辺りでもものすごくお金が動いていますし、彼らがこれらの大きな市場を支えているのです。

調査によると、ソロ男で週に20時間以上趣味に時間をかける人が4割、月収の3割以上を趣味に使う人が6割もいるということがわかっています。先程のエンゲル係数にあったように、一方では食にお金を使い、一方では趣味にお金を使うという実態が見えています。

●行動3: 頑固で、あまのじゃくで、自己矛盾だらけのソロ男
消費力の高いソロ男ですが、「動かしにくい」という特徴も挙げられます。彼らは、頑固で、あまのじゃくで、へそ曲がりで、面倒くさいためです。これは偏見ではなく、調査で浮き彫りになった性格です。

あまのじゃくが一番出るケースとして、企業の広告やキャンペーンなど、売り手側がメッセージを送ることを極端に嫌がる傾向にあります。キャンペーンや景品などに影響されるかという質問に対しては、4割のソロ男がそんなものに踊らされてたまるかと答えています。しかし、仮にこのようなキャンペーンがあったら参加したいと思いますか?と別の軸で同じ人に聞くと、思いっきり影響されているという結果が出ます。企業なんかに踊らされてたまるかと言っている一方で、何かが出たらパクっと食いついてしまうのがソロ男なのです。

彼らの典型的な行動パターンは言っていることとやっていることが違う「自己矛盾行動」です。例えば、結婚する気はないと言っているのに女性にはモテたがり、他人を気にせず自由に生きたいと言うのに、他人の評価をものすごく気にします。ブランドスイッチなんかしないよ、俺一途だからと言いつつ、他で新商品が出るとすぐに買ってしまいます。また、長生きにはこだわらないといいながら、健康食品が気になるといったこともあります。

こう見てみると、言っていることは面倒くさいのですが、根は純粋で正直な人たちなのかなと思います。ここまで、多少面白おかしく説明してきましたが、こういう特徴がわかった上で企業がコミュニケーションを取っていくことが重要です。もはや、増え続けるソロ男たちはマイノリティーではありません。消費意欲も旺盛ですので、市場のターゲットとしては無視できない存在になるのではないかと思います。

3.ソロ男だけじゃない! 社会を「リキッド化」させる人々の行動

ここまで男性の話ばかりしてきましたが、実は独身の女性の価値観や消費傾向もソロ男に似てきている調査結果があり、同じくくりで考えても良いかもしれません。ソロ男の場合は収入が低いケースが多いのですが、女性は逆です。年収がある程度を超えると、無理をして結婚する必要がないと考えるためか、お金を持っている独身の女性がかなりの割合でいらっしゃいます。自分一人で生きていくためのお金を確保した段階から、自分のためにお金をかけたり、健康や投資にお金がいったりと、ソロ男とお金の使い方が似ているのです。女性だからという既存のマーケティングが通用しない可能性があります。

また近年、子どもがいない夫婦だけの世帯に特徴的なのは、財布が別々ということです。お互い共働きで、極端な話、お互いどのくらいの収入があるか知らないわけです。お互いの貯金にも干渉せず、収入も、支出も貯蓄もわからない、という夫婦運営をされている方が増えています。まさにこれは個人化する社会のきっかけだと思います。家族単位ではなく、個人単位になるということです。結婚したとしても、家族になったとしても、消費やお金の使い方は個人ですよという意識が増えてくることになります。今後、単身世帯が4割、夫婦だけの世帯が2割になりますので、人口の6割以上が個人化のターゲットになるわけです。

バウマンという社会学者が「ソリッド(固形)社会からリキッド(液体)社会へ」移っていくという言い方をしています。「群」から「個」という社会に移行しますし、安定・標準・統一性といったものが多様化へと向かうのがリキッド社会です。マーケティングで言うと、かつての三種の神器のように購買にメリットがあるか否かが基準の「損得マーケティング」を行っていたのが、これからは「評価マーケティング」と言って、自分の得にはならなくてもやりたいからやるのである、買いたいから買うのである、応援したいから応援するのである、といった想いに入り込む形へ変わっていきます。

未婚と連動して晩婚化もあげられます。結婚が遅くなるということは独身期間が長くなるということです。そして、結婚しても、どちらかがお亡くなりになるとまた独身に戻ります。結婚する場合でも前後には必ず独身期間があるわけです。人生100年時代と言われていますが、夫婦でいる時間が伸びるのではなく、独身の時間が伸びるのです。また、結婚するしないにかかわらず、個人化は更に進みます。共働きの夫婦が別財で、平日は食事をそれぞれ取ったりするのも、別に仲が悪いのではなく、その方が合理的だったりするからです。このように暮らしの形態が変わってくるということは、それに合わせたサービスがチャンスになってくるわけです。今回ご紹介してきたマクロデータや、独身者の行動特徴をヒントに、あなたのビジネスを見つめ直すきっかけにしていただければと思います。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年6月7日に配信された『超ソロ社会・ニッポンの未来 01』を編集したものです。

講師: 荒川 和久(あらかわ かずひさ)
株式会社博報堂 アクティベーション企画局 ソロ生活者研究所所長。
早稲田大学法学部卒業後、博報堂入社。自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅など、幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。プランニングだけではなく、キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。
従来、注目されなかった独身男性生活者に着目し、2014年より「博報堂ソロ男プロジェクト」を立ち上げた。自らも「ソロ男」である。
日本で唯一の独身男性研究家。読売オンライン、東洋経済オンラインにて「ソロモンの時代」コラム連載。

  • <著書>
  • 『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)
  • 『結婚しない男たち 増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)