BBTインサイト 2019年3月25日

社会変革型リーダーの構想力~決断する力が未来を動かす

 
講師:朝比奈一郎
青山社中株式会社 筆頭代表CEO
 
ゲスト:本間真彦
インキュベイトファンド 代表パートナー


社会変革型リーダーには2つの要素があります。1つは言葉通りリーダーシップをとって社会を変革していくこと。もう1つは、国や社会について考えていくこと。「儲かること」を考えて前者だけを行う方はけっこういらっしゃるのですが、後者の国や社会、制度や慣習のことまで考え出すと、思いはあるもののなかなか行動に移すのが難しくなります。この難しい2つの課題を同時に達成していこうとする人を、社会変革型リーダーと呼んでいます。

今回は、ご自身もパイオニアとして世界を切り開きながら、ベンチャーキャピタリストとして起業家の支援をされている、インキュベイトファンド代表パートナーの本間真彦さんをお迎えし、「社会変革型リーダーの構想力」について伺いたいと思います。

1.やりたいテーマがない中で進み始めたベンチャーキャピタルの道

朝比奈:まず幼少から学生の頃の話から伺いたいのですが、どんな幼少期を過ごされたのですか?

本間:幼少の頃は発達が遅く、成績表には「2」ばかりついていましたね。その中で、足だけは速く、みんなから「すごい」と言ってもらえることが僕の唯一の成功体験です。それで、大学まで陸上を続けていました。ベンチャーや起業に縁のない家庭で育ったのですが、将来的に社会構造を広く見られるような仕事をしたいと漠然と感じていて、それならばビジネスをやるのが一番わかりやすいと思い、大学では商学部を選択しました。

朝比奈:やりたいテーマがなかったので、広く見られるものを選んだということですね。卒業後ジャフコに就職したのはどんな理由からですか?

本間:学部生時代からベンチャーキャピタルは知っていて、ファンドの仕組みはよくできていると感じていました。お金がない人に最初に投資して、その人がうまくいったときだけお金がもらえるのは非常にフェアな事業であると。それに、当時周りの同僚は商社や保険会社、銀行に就職する人が多かったのですが、就職する上で、自分でリスクをとれたり、1から10まできちっと回せる仕事がしたかった。当時はITバブルで、1994年にamazon、1998年にgoogleができ、テクノロジーで世の中すべてが変わるんじゃないかという時代です。そのため、就職して志望したのは海外投資部門ですが、新卒でいきなりいける部署ではありません。たまたま当時の役員の尾崎さん(後にアントファクトリーというPEファンドを設立)が上智大学の体育会系出身で、新卒はそんなに変わりはないだろうから誰でも構わないけど、根性だけはあるやつがほしいと。ラッキーでしたね。

2.創業時に投資して一緒に会社を大きくする

本間:その後何度か転職をするのですが、コンサルティング会社や商社でベンチャーキャピタルをやるとどうなるのか、1つのところだけでなく広く知りたかったというのがあります。その頃にはベンチャーキャピタリストとして生きていきたいと思っていたので、一流になるにはどうしたらいいかを考え始めていました。現在は、インキュベントファンドを創業し、肩書きとしてはGeneral Partnerです。General partnerはファンドの意思決定者で、この意思決定者が横に4人いる仕組みになっています。

朝比奈:インキュベイトファンドの特徴はどんなところですか?

本間:1つは、会社の設立時に投資をするところ。すでにうまくいっている会社に投資をするわけではなく、まさに今「こういうことをやっていきたい」という構想を持っているファウンダーの資金の担い手になることです。もう1つは、未来の科学者や天才に投資をするということ。具体的には筑波大学准教授で、本当に魔術のようにテクノロジーを操る落合陽一さんです。一緒に投資をしましょうということで、ピクシーダストテクノロジーという会社もあります。それもこれも、創業時に投資をし、徹底的に支援して大きくしていくところが、我々の特徴の1つと考えています。

朝比奈:投資する企業はどのように選ばれていますか?

本間:「ファウンダーの人がどれだけ事業に思いを持ってコミットしているのか」が一番大事ですので、そういう方にひたすら会って、その中で「この人だ」と思える方を見つけます。また、次に伸びてくる事業のリサーチを行い、その起業家に持ち込むこともあります。

朝比奈:提案して作っている会社もあるんですね。

本間:はい。その中で、会社が成長するには市場選択が大きく関わってきます。優秀な人もぬかるみを走れば速く走れないので、優秀な人に十分な環境を与えてあげることも仕事の大事な部分です。また、マーケティングのチームなど全面的にさまざまなタスクをバックアップするチームを作って支援することで、会社の成長につなげています。

朝比奈:なるほど。お金だけでなく、人材面を含めすべてをフルサポートしている。

本間:そうですね。もう1つ、起業家を支援する職業でありながら、同時に我々自身もどういう風に大きくし、支援する人をどうやって増やしていくかも大きなチャレンジであり、夢です。日本では累計300社に投資し、別ファンドですが東南アジアやインドにも会社を作っています。やはり今後の成長マーケットを見て、中華系など外のお金と日本を結びつけたり、日本のものを海外に持っていくような動きをしたいと思ったのが、始めたきっかけです。東南アジアやインドのマーケットはここ5~6年で爆発的な成長を遂げています。我々のやり方を現地化し、現地ですべての意思決定をしながら試行錯誤を続ける。それを3拠点でシェアしながら行っています。

3.ベンチャーキャピタルの草分けをしてあえて競合を作る

朝比奈:ここからは、本間さんのチャレンジがどんなところから生まれてくるかについて伺いたいと思います。先ほど陸上が自信をつけた1つの要因だと伺いましたが、具体的に教えていただけますか?

本間:陸上は足が速いか遅いかを競うスポーツで、9割5分くらいは素質で決まります。なので、残りの5分しか努力できるフィールドがないんです。私はこの世界観が好きですし、「正しい努力をしなければいけない」こと徹底的に学びました。あとは、救ってくれるのは自分だけなんだと。たとえ負けても「お前が練習しないから遅いんだ」という感覚が、自分はすごい好きだったので、今も自分のアシスタントを育成しているわけではなく、暖簾分けをしていくような仕組みを作っています。

朝比奈:なるほど。

本間:ベンチャーキャピタルになるなら最終的には自分自身で意思決定をして、失敗しても成功してもあなた1人でケツをふいてくださいというようなゆるい連邦性です。

朝比奈:普通の業界では自分のライバルが増えるのを嫌いますが、本間さんがやられているのはある意味で自分の競合を作っていくようなことで。

本間:やっぱり投資家が多いと、起業家も増えるんですね。まだ日本からは新たなソニーもホンダも生まれていません。若手に暖簾分けをして全体のパイをキープしていくことで、大きなインパクトを与えられると考えています。

4.ベンチャーキャピタルに必要な素質

本間:新しいイノベーションを行う上では、どんな市場選択をするのかが非常に大事です。どういうところに自分がいて、どんなチャレンジを起こすのか、その洞察力がベンチャーキャピタルには欠かせません。それに、どんな起業家も失敗の波を超えて成功して残っていますが、大きな変化が起こりそうなときに確実に勝負してきているんですよね。

朝比奈:なるほど。そういった兆しはどうやって見抜かれているんでしょうか?

本間:見えるからと言いたいところですが、実際そんなことはなくて、こんな風に世の中が動くのではないかという仮説を立てることでしょうか。ベンチャー投資をやっていると、皆さんいろいろとアイデアがあるんですね。始めは小さな話なのですが、未来志向の人など少なからずそこで動く人がいます。そうした小さな変化がある一定の軸でつながり出し、解像度が上がってくるタイミングがある。そこが勝負を仕掛けるときであり、投資をするときです。どの業界でもそこに対して洞察の深い人はいて、そういう人に最終的に投資を行っています。

朝比奈:その解像度が上がっていく感覚は面白いですね。最後に、本間さんの構想力を一言で言うと何になりますか?

本間:いいことと悪いことは50/50。完全に白黒ではない中で、しっかりと自分で決められる力でしょうか。自分が夢想する世界があったときに、やるかやらないかの決定は自分自身なわけで、自分で決めていけば考え方も固まってきて、より強い力が出せるようになるのではと思っています。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年8月22日に配信された『社会変革型リーダーの構想力27』を編集したものです。

講師:朝比奈一郎(あさひな いちろう)
青山社中株式会社 筆頭代表CEO
東京大学法学部卒業。ハーバード大学行政大学院修了。経済産業省に約14年勤務し、公務員時代に若手国家公務員主体の「新しい霞ヶ関を創る若手の会(プロジェクトK)を設立。2010年に「世界に誇れ、世界で戦える日本」のための人材・政策・組織を創る青山社中株式会社を設立。

<著書>
『やり過ぎる力 混迷の時代を切り開く真のリーダーシップ論』(ディスカバー・トゥエンティワン)

ゲスト:本間真彦
インキュベイトファンド 代表パートナー
1975年、神奈川県生まれ。1998年、慶應義塾大学商学部卒業。同年、株式会社ジャフコに入社し、海外投資部門にてシリコンバレー・イスラエルのネット・IT企業への投資を行う。米国ネットサービスの日本法人立ち上げを行う。アクセンチュア株式会社、ワークス・キャピタル株式会社を経て、2007年にコアピープル・パートナーズを設立。2010年にはインキュベイトファンドを設立し、代表パートナーに就任。