講師:米倉 誠一郎
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 / 一橋大学イノベーション研究センター特任教授
ゲスト:アッシュ・ロイ
株式会社Live Smart 代表取締役社長
時代の流れをつかみ、革新的なサービスやビジネスモデルを生み出すアントレプレナー。ビジョンを構築する力や強力なリーダーシップ、リスクがあっても果敢に挑戦しようとする姿勢など、ビジネスパーソンが彼らから学ぶことは多いでしょう。
第1回に続いて今回も、革新的なサービスを次々に生み出している株式会社Live Smartの代表取締役社長であるアッシュ・ロイさんをゲストにお迎えし、事業にかける情熱と成功の秘密を探っていきます。前回は、Live Smartが生み出してきた様々なサービスやビジネスモデルの強みについて見てきました。第2回の今回は、インド出身ながら日本で事業を立ち上げたロイさんのライフストーリーをひもときながら、事業にかける情熱や人間性に迫っていきたいと思います。
米倉:ロイさんの言葉でいいなと思ったのが「小さな会社には、小さな会社の成長の素がある」です。
ロイ:成長の素はいくつかありますが、一番は商品に積極的にフォーカスすること。そして次に大事なのがbounce backです。
米倉:はね返るとかやり返すということですね。
ロイ: そうです。右側にあるチャート、実はAppleなんです。今時価総額が100兆円の会社ですが、左側の赤い印の時を見ると株価が急に下がっていて、もうつぶれると。
米倉:そう思ったことありますよ。
ロイ:そんな時は、人材も商品も全部フォーカスしてやり直すのです。bounce backのために、心と頭の準備しておかないと駄目です。
米倉:その準備で一番大事なのがハングリー精神ですね。Stay hungry.
ロイ:そのために自分を信じることはもちろん重要ですが、自分のチームを信じることも重要です。私たちの会社では「1割、9割」というルールがあるんです。私がしているのは1割。周りがしているのは9割。自分だけで全部できるなんてあり得ないので、チームを信じるのです。
米倉:これ、本当に大事だと思うな。自分を信じなきゃいけないけど、仲間を信じて一緒に
行くぞと。
ロイ:小さい会社ではいろんな問題が起きますからね。資金もいつもショートしてますし。
米倉:最後の「200パーセント」はどういうことですか。
ロイ:大きい会社はもともとドアが開いていますが、小さい会社はドアが閉まっています。でもどこかのタイミングで開く。追い風が来た時、200パーセントで行かないと次に行けません。開いたら行けという感じ。
米倉: 面白いですね。これ読んでいる人は得しましたよ。絶対大事だと思います。
米倉:次にお伺いしたいのが、成長の鍵です。
ロイ:おかしいと思われるかもしれませんが、私たちはGoogleと戦おうとしています。今はパートナーですが、それぐらいの気持ちでいます。そうすると、圧倒的に差別化された商品、あるいはソフトウェアを持っていないと市場に参入できません。どんな商品でもお金とブレーンがあれば、1年くらいでまねできるんですよ。私たちはそれを想定した上で、Nothing is permanent. The only thing that’s permanent is change.
米倉:永久不変の法則はchange。それをやるために「強力なコア人材」が必要だと。
ロイ:コア人材は会社の中心です。私が1つの中心だとしたら、中心が3つぐらいないと難しいですね。
米倉:なるほど。3つ目が「タイミング」です。これはどういうことですか。
ロイ:海の波は見えるけれど、消費者の需要の波は見えません。分かったのは、right time、right placeが大事だということ。私たちのサービスも2年ぐらい前だったら、Google HomeやAmazonのAlexaが出ていなかったので、消費者に響かなかったでしょう。でも2年後だったら遅い。他の会社がマーケットを取った後だったら売れませんから。
米倉:今だったということですね。
米倉:ここからはロイさんのライフストーリーに迫っていきたいと思います。インド生まれですね。ご両親はアントレプレナーじゃない。
ロイ:正反対です。お父さんは大学の教授で、お母さんは高校の先生です。オディシャ州という、インドで下から2番目の貧しい州で育ちました。
米倉:インド工科大学を卒業した時に一度、日本に来たそうですね。
ロイ:通常はインド工科大学を卒業したらアメリカなどにエンジニアリングをマスターしに行くのですが、まだエンジニアリングをやりたくなかったのでどこかで働こうと。たまたま日本にあるアメリカの子会社にリクルートされて、20歳で日本に来ました。
米倉:日本では開発をやっていたとか。
ロイ:はい。ボーイング777の生産前テストを初めて全部コンピューターでやるというプロジェクトに携わりました。
米倉:それから、MBAを取るためにアメリカに渡って。MBAを取ってどうしたのですか。
ロイ:投資銀行に入ったのですがあまり面白くないので、友人3人で会社を立ち上げました。当時42億ぐらいの売り上げがあったのですが、そこに私が4番目のファウンダーとしてjoinして、18カ月で180億円まで成長させました。ただ、統合基幹システムの会社だったのですが。2000年問題で時価総額が急激に落ちて。NASDAQに上場
していましたが、800億から200~300億まで落ちてしまい、どうしようかと。その会社はNTTデータに売りました。その後は、プライベート・エクイティに入って。
米倉:またガッポリ稼いだわけね。
ロイ:稼ごうと思ったら、リーマンショックが来て。それでまた事業をやろうと思って日本に来ました。最初は投資関係の事業をやり、その次がLive Smartです。設立は2016年12月です。
米倉:つい最近じゃないですか。
ロイ:ただ私の中でアイデアが出てきたのは4年ぐらい前ですね。
米倉:どうしてこの領域に目を付けたんですか。
ロイ:日本は高齢化が進んでいるので、自動化がくるんじゃないかと直感的に思ったのです。ただし、ロボットではなく人間にやってもらいたいのではないかと。今の一番の課題は、チャットボットをどうやってヒューマナイズするかです。裏はマシンですが、感覚は完全に人間のようにしなければいけないと思っています。いずれにせよ、自動化はいつか来ると思っていたので準備を始めました。
米倉:起業の瞬間のモチベーションはなんだったのでしょうか。
ロイ:大きいビジョンかもしれませんけど。Only some people can change the world. And I think I can play some role to change the world. I think we’ll see.
米倉:世界を変えるのね。Only crazy people can change all.
ロイ:We’re crazy.できそうだと思って。
米倉:かっこいい。さて、座右の銘も聞いてみたいですね。
ロイ:Free your life.
米倉:もっと自由になれと。
ロイ:例えば家にいない時に宅配業者が来たら、家にまた戻って待つとかやりたくないですよね。日本語で雑用と言いますが、雑用は私たちに任せてと。You do what you are really good at, paint, compose, write, whatever you want to do.
米倉:僕の教え子に「freee」という会計ソフトを作った佐々木大輔という人がいますが、彼も同じことを言っていました。お父さんもお母さんも自営業で、年度末になると会計が大変。しなきゃならないことは私たちがやるから、もっと自分のやりたいことにフォーカスしてもらおうと。同じビジョンですね。そういうビジネスはこれから絶対来ますね。
ロイ:来ると思います。
米倉:ロイさんの目標、夢はなんですか。
ロイ:I’m dreaming everyday.
米倉:まずGoogleを倒してください。
ロイ:分かりました。
米倉:ちなみに、LSの日本語版と英語版はあるそうですが、他の言語はどうですか。
ロイ:日本の観光客は急激に増えているので英語、中国語、日本語に対応しています。今はLINEですが、WeChatでもできるようにします。そうすれば、中国から来ている人が民泊する時、WeChatでログインしたらホストが鍵など家のアクセスを期間限定で渡すことができます。
米倉:すごい世界だ。うれしいのはインドで生まれて、アメリカで教育を受けて、でも日本で事業をしていること。これから中国やアメリカに進出したら、You can change the whole world.ですね。ぜひ実現してください。ロイさん、貴重なお話をありがとうございました。
講師:米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)
法政大学大学院教授、一橋大学イノベーション研究センター特任教授
1953年、東京都生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学Ph.D.(歴史学)。1997年一橋大学イノベーション研究センター教授。企画経営の歴史的発展プロセス、特にイノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセスを専門として、多くの経営者から支持を受けている。
<著書>
『創造的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)
『2枚目の名刺 未来を変える働き方』(講談社+α新書) など
ゲスト:アッシュ・ロイ
株式会社Live Smart代表取締役社長。
1971年インド生まれ。インド工科大学卒業、ウォートン・スクールMBA修了。
株式会社Maisen の顧問及びステークホルダー。慶應義塾大学経済学部と慶應義塾大学MBAプログラム客員教授。
これまで投資ファンドと企業合わせて12億USドルを超える資金調達と投資を行ってきた。またニューヨークのファンドindiaSTARの共同設立者であり、同ファンドを通じてインドの過小評価されている上場企業に投資を行ってきた。投資事業以前のキャリアとして、Intelligroup(10数カ国で事業展開するソフトウェアインテグレーター、2001年当時の売上高180億円、現在NTTデータの子会社)でシニア・ヴァイスプレジデント。
<著書>
『インドと組めば日本は再建できる』(共著・幻冬舎) など