講師:米倉 誠一郎
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 / 一橋大学イノベーション研究センター特任教授
ゲスト:アッシュ・ロイ
株式会社Live Smart 代表取締役社長
イノベーションの担い手として注目を集めているアントレプレナー。テクノロジーの進化や環境整備などによって、起業のハードルは以前よりも低くなりました。しかし、これまでにないビジネスモデルや顧客の真の課題を解決するソリューションを提供し続け、事業を成功させているアントレプレナーはそれほど多くありません。成功するアントレプレナーは何が違うのでしょうか。ビジネス環境が大きく変化する中、彼らから学べることは多いでしょう。
今回は、革新的なサービスを次々に生み出している株式会社Live Smartの代表取締役社長であるアッシュ・ロイさんをゲストにお迎えして、Live Smartのサービスやビジネスモデルの強さの秘訣に迫っていきたいと思います。
米倉:ロイさんはインド出身で、インド工科大学卒業後はアメリカのウォートン・スクールでMBAを修了されたんですね。
ロイ:はい。大学まではインドにいたのですが、大きなことをやるにはアメリカの経験が必要だと思いアメリカに行きました。
米倉:ライフストーリーは後ほどお伺いするとして、まずはLive Smartについてお伺いしたいと思います。IoTプラットフォームサービスプロバイダーとのことですが、どんな事業を展開しているのでしょうか。
ロイ:大きく2つ目的があります。ひとつは住まいのコントロールを自動化すること。スマートホームですね。何もタッチしないで、照明やエアコン、テレビなど家の中の環境を自動的に動かします。もうひとつは、日常サービスを自動的にシステム提供することです。例えば、エアコンが壊れた時や家事代行が欲しいと思った時に、自然言語でシステムと話しながら簡単にそのサービスが受けられるというものです。
米倉:自然言語というと、普通にしゃべればいいんですよね。にわかには信じがたいですが。
ロイ:はい。Google Homeというスマートスピーカーがありますが、私たちの製品は「LS Mini」というもので、これを通して家電などを動かします。
米倉:LS Miniを、家の中に置くわけですね。
ロイ:はい。そして家電などを接続します。家を出る時にテレビ、エアコン、照明を全部オフにしたいなら「全部オフ」ルールを作ります。そうすれば、家を出る時Google Homeに言うか、アプリかLINEを押すだけで全部オフになります。
米倉:じゃあGoogle Homeは私の言葉をLS Miniに伝えるだけの道具なんですね。
ロイ:そうです。Google Homeに指示すると、ボイスがまずテキストになります。そのテキストが私たちのサーバーに入り、LS Miniを通して家電に指示がいくのです。LS Miniはコンシューマー向けですが、ビジネス顧客向けに「LS Hub」もあります。LS Hubはセンサーや電球、鍵などほとんどのIoTデバイスと接続できます。
米倉: これはBtoBですか。
ロイ:BtoBtoCですね。私たちは不動産デベロッパーや管理会社にLS Hubを売ります。彼らはLS Hubをあらかじめアパートに設置しておくのです。するとアパートに入居する時には、スマートホームになっているというわけです。
米倉:なるほど。GoogleやAmazon のAlexaがやっていることと似ているように見えますが、何が違うのですか。
ロイ:彼らの一番の目的はUI、ユーザーインターフェースをなくすことです。これからの世界は、ゼロUIになるんですよ。アプリ自体がなくなる。そうなると時計でもスマホでも、ボイスでコミュニケーションするようになります。でも、実際にサービスを受けようとすると、GoogleやAmazonではできません。そこを私たちが担うのです。
米倉: GoogleやAmazonはネットの中のことはできるけど、モノを動かすことはできないと。
ロイ:エアコンをGoogle Homeでは動かせませんから。私たちは現実のサービスを動かします。例えば家事代行。オーナーがハウスキーパーに、水曜日の3時から5時までしか使えないワンタイムキーを発行します。そうすると、入った瞬間にカメラがオンになり、外にいるオーナーにLINEでビデオが送られます。終わったらまたLINEでメッセージが届きます。こうしたルールは自由に作れるので、自分がいない時に宅配便を家の中に届けてもらうことも可能です。
米倉:すごいですね。しかも売れている。気になるのがお値段ですが、おいくらですか。
ロイ:LS Miniは今4980円で出しています。LS Hubは、センサーやカメラ、鍵などもついて7万円くらいです。
米倉:お買い得じゃないですか。複雑な流通経路もないし、広告もやらないから安く提供できるのですね。それにしても、5000円切るのはすごい。これは来ますね。
ロイ:下記は一例ですが、Googleや私たちのLSが何をやっているかを説明します。例えば、自分好みの『おはよう』というルールを作ったとします。朝Googleに「『おはよう』をオンにして」と言うとGoogleが立ち上がり、GoogleのクラウドがLSのクラウドに指示を送ります。そうすると、コーヒーマシンがオンになったり、カーテンが開いたりします。
米倉:温度も同じようにできると。
ロイ:LINEでもできます。家に帰る前にエアコンをつけたいけれど、何度がいいか分からない。そんな時は「エアコンをアダプティブにして」と打てば、「今から何をしますか」とシステムが聞いてきます。帰宅後に何をするかで最適な温度は違いますから。外の温度や湿度なども全部計算した上でシステムが温度を決めます。
米倉:最適な温度を予測するんですね。
ロイ:これは非常に大事なポイントなのですが、ユーザーが何をしたかはhistoryです。それも大事ですが、もっと大事なのはユーザーがこれから何をやるか、predictionなのです。
米倉:BtoBで、メンテナンスにも使えますね。
ロイ:はい。例えば、エアコンが壊れた時にLINEで「エアコンが壊れた」と打てば、チャットボットで自動的にエアコンを修理するルーティンが始まります。実際の修理はBOTではできませんが、修理予約までは自動でできます。
米倉:LSの中にパッケージとして入っているのですね。
ロイ:エアコン修理は昔からありますが、私たちはそれをBOT化して提供しているのです。
米倉:御社はユーザーと強い関係を築くという戦略を取っていますね。
ロイ:ユーザーと強い関係を築くことで、素早く安くサービスを提供したいと思っています。日本が高齢化社会になる中で、これまでのような電話でのやりとりはそぐわなくなるでしょう。今後は自然言語、つまり会話やLINEをしながらサービスを自動で提供できるようにしなければいけないと思っています。例えば、車を買った入居者が駐車場を申し込みたい時、管理会社に電話する必要はありません。管理会社のBOTと会話をしながら、申し込みができるのです。面白いのは、システム自体は私たちのものですが、BOTを作っているのは管理会社なんですよ。
米倉:それをまとめてあげているのが御社のプラットフォームですね。
ロイ:私たちは実際のサービスは提供していませんが、サービスをつないでいるのです。
米倉:ビジョンも面白いですね。
ロイ:多くの会社がそうだと思いますが、We want really happy userなのです。満足してもらうことがスタート。その次はエンゲージメントを増やしたいです。
米倉:ビジョンというよりビジネスモデルですね。LS Miniを買っただけじゃもうからないですよね。だってよんきゅっぱですよ。
ロイ:もうかりますよ。
米倉:そうなんだ。そしてさらに課金していくと。
ロイ:当然です。サービスはトリガーですから。最終的に、ユーザーに毎日LSのプラットフォームを使ってほしい。なぜなら、ユーザーはこういうサービスを求めているという確信があるからです。
米倉:もっとお話をお伺いしたくなりました。次回はライフストーリーもひもときながら、事業にかける情熱に迫っていきたいと思います。
講師:米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)
法政大学大学院教授、一橋大学イノベーション研究センター特任教授
1953年、東京都生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学Ph.D.(歴史学)。1997年一橋大学イノベーション研究センター教授。企画経営の歴史的発展プロセス、特にイノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセスを専門として、多くの経営者から支持を受けている。
<著書>
『創造的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)
『2枚目の名刺 未来を変える働き方』(講談社+α新書) など
ゲスト:アッシュ・ロイ
株式会社Live Smart代表取締役社長。
1971年インド生まれ。インド工科大学卒業、ウォートン・スクールMBA修了。
株式会社Maisen の顧問及びステークホルダー。慶應義塾大学経済学部と慶應義塾大学MBAプログラム客員教授。
これまで投資ファンドと企業合わせて12億USドルを超える資金調達と投資を行ってきた。またニューヨークのファンドindiaSTARの共同設立者であり、同ファンドを通じてインドの過小評価されている上場企業に投資を行ってきた。投資事業以前のキャリアとして、Intelligroup(10数カ国で事業展開するソフトウェアインテグレーター、2001年当時の売上高180億円、現在NTTデータの子会社)でシニア・ヴァイスプレジデント。
<著書>
『インドと組めば日本は再建できる』(共著・幻冬舎) など