BBTインサイト 2019年3月25日

大企業×ベンチャーの事業の起こし方~事業の成功はいいベンチャーと組めるかどうかで決まる

 
講師:斎藤祐馬
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長
 
ゲスト:青木康時
株式会社アクティブソナー 代表取締役社長


大企業がどうやってベンチャー企業と組んで事業を起こすのかをテーマにしている「新規事業創出に向けたベンチャー企業との協業」。今回は、ベンチャー企業側の視点から、どういった方法で大企業がベンチャー企業と組んでいくのがよいかを考えてみたいと思います。ゲストには、Eコマース事業を行う株式会社アクティブソナー代表取締役社長の青木康時さんをお迎えしました。

1.物を売る楽しみが転じて「RECLO」の事業へ

斎藤:まず、現在青木さんが展開している「RECLO」のサービスについてご紹介ください。

青木:はい。「RECLO」では、ブランド品などのラグジュアリーブランドの委託販売サービスをインターネットで行っています。従来は買取り屋や質屋、ヤフオク!などのネットサービスがありましたが、我々の場合はお客様から物をお預かりし、高く売り、売れた分を分配するというモデルです。中古販売ではメルカリさんが有名ですが、個人間取引の場合は商品が本物かどうか、適正価格かどうかわからないという声もあります。高級品の場合は間に安心を担保できる業者がいた方がいいであろうと考えました。

斎藤:フリマアプリとの大きな違いはどんなところですか?

青木:フリマアプリとの違いは、やはり委託販売というところです。お預かりした商品が売れたときに手数料をいただく仕組みですので、在庫を持たないというのが大きな違いです。

斎藤:青木さんはこれまでも連続的に起業して事業を興されていますが、どういった経緯で「RECRO」の事業にたどり着いたのですか?

青木:元々、携帯電話販売のアルバイトをしていたのですが、物を売れば売れた分だけインセンティブがもらえたので、単純に物を売ることが好きになりました。そして、最初は営業会社を立ち上げ、次に携帯電話の通信料と関係が近いウォーターサーバーの販売を始めました。その後、インターネットの時代に入り、自分もネットサービスをやろうと心に決めた瞬間に、たまたまメルカリなどのC to Cビジネスに出会ったのが、「RECLO」を始めた背景です。

2.「RECLO」のグローバル展開

斎藤:企業とのアライアンスを広げられる事業だと思うのですが、実際はどのようにされてきたのですか?

青木:はい、「RECLO」では、「物を集める」「鑑定して商品化する」「販売する」という3つの作業を行っているのですが、物を集めることと商品を売るという2つをバランスよく育てる必要があります。当初はこの2つを広告に頼っていたのですが、それだと広告費が単純に2倍になります。そこで、どうすればお金を使わないで伸ばせるかと考え、たとえ他人のふんどしでも使えるものは使おうと思い立ったんです。百貨店などの大企業が中古事業を始めるとなると大変な手間がかかり、結局、面倒になってやらないのではないかと考え、ならば、そこで我々がアライアンスを組み、大企業のOEMサービスとして中古事業を行うことにしました。

斎藤:なるほど。集める方も売る方も大企業とのアライアンスで伸ばしていこうと。

青木:はい。売る方では楽天ebay、amazon、中国の淘宝(タオバオ)やWeChat、シンガポールのECなどと提携し、APIで在庫を連携しつつ、販売掲載数も増やしています。世界中に我々の商品が転載されるので、どこかで誰かが買ってくれるという仕組みです。

斎藤:実際にはどんな物を販売されているのですか?

青木:我々が扱うのは、シャネルやヴィトン、エルメスなど世界中の誰もが知っているブランドです。展開していく中で、中国の人から「これだったら安い」とか、アメリカの人から「そっちで買いたい」といったニーズがありました。そのため、インターネットの仕組みを利用して、高速に、世界中に転載していくことで海外まで幅を広げれば商機が高まるのではないかと思い、現在グローバル化を進めています。

斎藤:具体的にどうやってグローバル化を進めていますか?

青木:我々にはマーケティングする知識やノウハウがなかったため、すでに海外で成功されている企業さんに商品を転載してもらい、レベニューシェアしました。つまり、まずはマーケットの感度を探ってもらい、売れそうであれば我々が舞台ごと乗り込んでビジネスチームを作りグロスさせていくという手法です。


3.日本の大企業に今求められているもの

斎藤:さまざまな大企業とアライアンスを組んでいらっしゃいますが、その中で苦労した点などはありますか?

青木:最初に大企業の方々にヒアリングさせていただく中で、このサービスのよさが伝わり「やってみたい」というところまではいくのですが、その後実際に意思決定をするまでに時間がかかったり、前に進まなかったりというのは実感しましたね。事業の運営は全部我々が行うのですが、表向きはあくまで先方の新規事業であり、我々は黒子に徹しています。こうした「何もしなくていいので少し間借りさせてください」というスキームを作るまでは当初苦労しましたね。

斎藤:ベンチャーの方々が大企業に行くと、3~4回してようやくキーマンに会えて、いざ動こうとしたら議論中にいなくなるとかよくありますよね。起業家の方から見て、大企業はどういった動き方をすると組みやすいですか?

青木:やはり1人の方が意思決定の裁量を持たされているかどうかが非常に重要です。我々からすれば、意思決定ができる方に会えているかどうかが成就するポイントですし、相手の方には内部のコンセンサスを事前に取っておいてもらうことを特にお願いしています。

斎藤:話が進んでいる中で急にダメになると悔しいですもんね。経営陣にプレゼンすると、新規事業に対して実は社長が一番興味を持つんです。なので、いかにそういう意図を最初に巻き込めるか――。

青木:ベンチャー側も意思決定がしやすい座組みを準備しておくことが大事ですよね。我々でいえば、三越伊勢丹と組んだ後に急加速したんです、「このベンチャーは組んでいい相手だ」と。象徴的なアライアンス・パートナーができれば、安心感を与えることができますね。

斎藤:海外の企業とも提携されていますが、日本と海外の大企業ではどういった違いがありますか?

青木:やはり一番の違いは、先ほどから話している意思決定です。海外の場合は、たとえそれがビックサイズの大企業であっても部に決定権があり、平場の方でも自分の担当領域であれば決定権を持っています。反対に、日本の場合はまずは外堀を固めて環境を整え、最後にスイッチを押すみたいな感じですので、そこの違いは感じますね。

斎藤:ベンチャー企業は今後海外の企業と組むことを狙っているので、日本の企業は体制も含めてかなりスピード感を上げないとベンチャーと組めなくなってきてしまうでしょう。

青木:そうですね、ベンチャー側の立場としてもそう感じますね。

斎藤:大企業としてもベンチャー企業をなかなか集められない状況になってきている面もあると思います。青木さんはどういった大企業に魅力を感じますか?

青木:アクセラレーション・プログラムで私が感じるのは、いいベンチャーを選ぶというよりも、大丈夫なものを選ぶという思考になりがちということ。このプログラムの目的は、やること自体ではなく、その先にある事業の成長です。今は荒くともとにかく新しいものを見つけて先へ進むんだという視点が持てるかどうか、我々自身はそこを一生懸命見ようとしています。

4.インターネットだからこそできるリユース・サービスの未来

斎藤:最後に今後の展開や将来についてはどのようにお考えですか?

青木:今、Eコマースは世の中にたくさんあり、百貨店を含め、過去10年間の購入履歴がずらっとあるでしょう。そのデータがあれば、どんな物を何年間在庫として持っているのか、我々だったらいくらで買い取れるのかなど、リユースのビジネスとして展開できるきっかけがあると考えています。例えば、Eコマースの購入履歴の中に下取りの値段をすべて出せば、お客様もいらない物を放出しやすくなりますし、それがアプリの形式になっていれば家にあるすべての資産が値付けされ、クローゼットにある時価総額が可視化されます。そうすれば、それらの価値が年とともに下がっていく減価カーブを予測できますし、我々もアドバイスがしやすくなると思います。

斎藤:新しい発想ですね。

青木:そうですね、これがインターネット・サービスを行っていることの矜持というのでしょうか。実店舗ではできなかったアクションは何だろう、ネットで世の中を快適にするにはどうしたらいいだろうと日々追求しています。社会が不況でもリユースの分野は強いですし、ゴミのない社会を作るという大義名分で今は行っています。

※この記事は、ビジネス・ブレークスルーのコンテンツライブラリ「AirSearch」において、2018年8月22日に配信された『新規事業創出に向けたベンチャー企業との協業03』を編集したものです。

講師:斎藤祐馬(さいとう ゆうま)
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 事業統括本部長
慶應義塾大学卒業。2006年、公認会計士試験合格、監査法人トーマツ入社。2010年より社内ベンチャーとしてデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社を立ち上げ、3年半で全国20ヶ所、150名体制へと拡大に成功。ベンチャー企業の支援を中心に、大企業の新規事業創出支援、ベンチャー政策の立案など幅広く手がけている。

<著書>
『一生を賭ける仕事の見つけ方』(ダイヤモンド社)

ゲスト:青木康時
株式会社アクティブソナー 代表取締役社長
1977年、岐阜県生まれ。事業会社4社のスタートアップ創業と2度のIPOに携わる経験を経たシリアルアントレプレナー。2012年11月に現法人を設立し、代表取締役社長に就任。日本最大のラグジュアリーブランドの委託販売&買取サービス「RECRO(リクロ)」を運営。大手企業との提携や海外200カ国での同時併売システムにより、正規品保証のグローバルリユースプラットフォームを展開している。